レゼが選んだ“二道”とデンジへの想い—境遇と自由をめぐるチェンソーマンの心理

チェンソーマン

※レゼ編のネタバレを含みます

『チェンソーマン』の「レゼ編」は、アクションやドラマだけでなく、キャラクターの心理と背景に深く切り込んだ作品として、多くの読者に強い印象を残しています。レゼが最後に選択したカフェ「二道」、そしてデンジに向けた複雑な感情は、彼女自身の生き方や運命、そしてデンジとの共通点に根ざしています。

藤本タツキの描く、武器人間としての宿命を背負うレゼの葛藤と行動を深掘りしながら、彼女がデンジに惹かれた理由や「二道」に込められた象徴性を考察します。さらに、岸部隊長の言葉に現れるソ連の冷徹な体制も踏まえ、物語の全体像を紐解いていきます。


2. レゼとデンジの共通点

レゼがデンジに好意を抱いた理由として、彼らの「境遇の共通点」が挙げられます。デンジは幼少期から親の借金に苦しみ、自由のない生活を送ってきました。一方、レゼもソ連のモルモット計画に組み込まれ、国家の道具(戦士)として生きることを強制されてきました。このような背景が、彼女をデンジに惹きつけた要因と考えられます。

2.1 自由のない人生

レゼはデンジとの会話で一見無邪気に振る舞いますが、彼女の中には「自分の人生を選べなかった」という深い絶望が潜んでいると思われます。彼女が学校に行ったことがない(行けなかった)デンジに語りかけるシーンには、無意識に自身の境遇を重ね合わせている瞬間が多く見られます。

  • 心理学的視点:鏡映効果
    鏡映効果とは、自分と似た特徴を持つ他者に対して、親近感や好意を抱く心理現象を指します。レゼにとって、デンジは「自由を奪われた人生」に共感できる存在であり、その無邪気な明るさは彼女にとって希望の光として映ったのかもしれません。
    象徴的なのはレゼの最後の心のつぶやき「デンジ君、ホントはね。私も学校行ったことがなかったの…」ではないでしょうか。

2.2 「好き」という感情の二重性

彼女の「好き」はスパイとしての任務から始まりましたが、次第にデンジへの感情が純粋なものに変化していきます。そのきっかけは、デンジの無垢さと彼自身もまた選択肢を持たずに生きてきた点にあるでしょう。

  • 自己決定理論との関連
    自己決定理論では、人間は「自律性」「有能感」「関係性」の3つを満たすときに、幸福を感じると言われています。デンジとの関わりで、レゼは初めて「関係性」という要素を得られたのではないでしょうか。

3. 岸部隊長が語る「ソ連」と武器人間

レゼの背景を語る上で、重要な要素として岸部隊長の言葉が挙げられます。岸部は国家に尽くす戦士の実験を進めたソ連について次のように語っています。

「ソ連の母親が子供を叱る時にするおとぎ話がある。軍の弾薬庫には秘密の部屋があって、その部屋は親のいない子供達でぎゅうぎゅうにあふれている。そこにいる子供たちに自由はなく外にも出られない。物のように扱われ死ぬまで体を実験に使われる…デンジが引っ掛かったのは、その部屋の一人だ。ソ連が国家のために尽くす為、作った戦士…モルモットと呼ばれる連中だ

この冷徹な事実は、レゼの宿命をより明確に浮き彫りにします。武器人間として改造された彼女にとって、「人間としての自由」は最初から奪われたものでした。

3.1 ソ連の体制と「道具としての人生」

ソ連のモルモット計画は、国家の利益を最優先にした非人道的なプロジェクトです。レゼの人生は、ソ連による徹底的な管理と訓練の中で形作られました。

  • 心理学的視点:自己効力感の欠如
    自己効力感とは、「自分の行動が結果を変えることができる」という感覚を指します。ソ連のような体制下では、個人の意思が無視されるため、レゼは自己効力感を喪失し、自分の行動が無意味であるという感覚に陥っていたと考えられます。

4. 「二道」に込められた意味

最後にレゼが向かったカフェ「二道」は、まさに彼女の人生の分岐点を象徴しています。任務に失敗し「ソ連や公安の粛清から逃げる」という道と、「デンジと共に逃げる」という道。そのどちらを選んでも平穏な未来が待っていないことは、彼女自身が最も理解していたでしょう。

4.1 自由を選ぶという行為

「二道」に向かう彼女の行動は、初めて「自分で選ぶ」という行為をした瞬間です。これまでの彼女は、ソ連という体制に操られるだけの存在でした。しかし、デンジとの出会いによって、「自分自身のために選択をする」という意志が芽生えたのです。

4.2 愛と自由への憧れ

レゼにとって「デンジと逃げる」という選択肢は、単なる逃避ではありませんでした。それは、彼女が初めて「愛」と「自由」を追い求める意思を持ったことを意味します。


5. 藤本タツキが描く「自由の代償」

藤本タツキの物語には、キャラクターが自由を追求する過程で「代償」を支払う構造がしばしば見られます。レゼの場合、それは「自由を追ったために命を差し出す」というものでした。

  • 外的要因と内的要因の衝突
    レゼは自分の意思で「デンジと逃げる」という道を選びましたが、その選択は外的な力(マキマ)によって無惨に断たれます。これは、いかに個人が自由を求めても、現実の社会構造や権力に阻まれることがあるという藤本タツキの現実主義的視点を象徴しています。

6. まとめ

レゼが最後に向かった「二道」は、彼女の人生そのものを象徴する場所でした。武器人間として生きることを強いられた彼女が、自らの意志で自由を求めたその行動は、読者に深い印象を与えます。

藤本タツキが描く『チェンソーマン』のキャラクターは、決して単なるフィクションに留まらず、私たち自身の選択や自由の価値を問いかける存在です。レゼがデンジと共有した一瞬の愛と自由への希望は、読者にとっても人生の選択を見つめ直す契機となるのではないでしょうか。

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